空想小説【介護ロボット 今日子さん 第1話 今日子さんとの出会い】

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プロローグ

2025年の今、日本政府が取り組んでいる少子高齢化対策は効果が見られず、介護業界の人材不足は加速しています。

政府は外国人の介護人材をさらに拡大して受け入れるようになりました。

働き手の減少とは反対に、AIはものすごい進化を遂げています。

今から40年前、私が高校生の頃、誰かが「そのうち1人1台、電話を持つ時代が来る」と言っていました。

「そんなわけないでしょ」と思っていましたが、今はみんな当たり前のように携帯電話を持っています。

これから先の未来は、AIの進化とともに、さらに加速して移り変わっていく…


この空想小説は、14年間ケアマネジャーをしてきた私がこれまでの経験をもとに、2055年の未来の在宅介護を描いた物語です。

30年後の未来、この物語で描く在宅介護が当たり前の世の中になっているかもしれません。

介護ロボット 今日子さんとの出会い

私、ゆりこは2055年6月22日、回復期リハビリテーション病院から無事に退院することができました。

久しぶりの我が家。

夫はすでに亡くなって、1人息子も独立して、今は1人暮らしだけど、やっぱり我が家が一番。

入院前は普通に歩いていたのに、手術した左足に力が入らず、歩行器を使って歩かなければならなくなりました。

介護タクシーの運転手さんにリビングまで付き添ってもらい、使い慣れた椅子に腰を降ろすと、なんだか急に不安になってきました。

80歳という年齢がそうさせたのかな… もう前みたいに歩けない…

「ピンポーン」チャイムが鳴り、「こんにちは。ケアマネジャーの田中です!」と元気な声が聞こえました。

ケアマネジャーの田中さんは入院中に何度かお会いしています。とても感じの良い人です。

田中さんの後に続いて、福祉用具事業所フューチャーの山本さんが透明のプチプチにくるまれた介護ロボットを運んできました。

「ゆりこさんのご希望通り、40代女性、名前は今日子さんで設定してありますよ」と田中さんが笑顔で言います。

2055年の今、訪問介護による人間の介護は、介護ロボットより費用がかかると田中さんから聞き、私は介護ロボットを選んだのです。

今や、ロボットは量産体制できる時代。

ちなみに、田中さんによると、人間の介護でも日本人を選択すると「日本人加算」がついて更に高くつくそうです。

前に誰かが「ロボットの方が気を使わなくていいじゃない」って言ってたけど、いざとなると、日本人介護を選ぶ人は一定数いるようです。

介護ロボットは細かい設定までできるようになっており、【性別・年代・名前、関係性・方言】まで設定できます。

入院中に田中さんから希望を聞かれました。

お世話をしてもらうのはやっぱり同性がいい。年代は若すぎず、年をとりすぎずの40代を選び、適当に昔のアイドルを思い出して名前をつけました。

関係性は「子供」を選ぶ人も多いようで、その場合、介護ロボットからは「お母さん」と呼ばれるそうです。

私は普通に「介護士さん」の設定で、方言なしの「標準語」を選びました。

山本さんが丁寧にプチプチのベールをはがすと、私用にカスタマイズされた介護ロボットが現れました!


「今日子さんにゆりこさんの顔や声をインプットしてもらいますね。まずは今日子さんを見つめて、『はじめまして、今日子さん。私がゆりこです』と言ってみてください」と山本さん。

みんなの前で恥ずかしかったけど、これからお世話になる今日子さんを見つめて、私はできるだけ大きな声で、山本さんに言われた通りに言いました。

「ゆりこさん、はじめまして。きょうこです。よろしくおねがいします」今日子さんは滑らかな言葉で返事をしてくれました。

【ロボット=カタコトの言葉】というイメージは見事に崩れ、今日子さんの心地よい言葉に一気に親近感が湧きました。

これから、今日子さんとの新しい生活が始まります。

今日子さんは日々、私に関するデータを学習していくそうです。

私の生活習慣や好みはもちろん、健康に関するアドバイスもしてくれるようになると山本さんが自信満々に言いました。

今日子さんとの初対面を終えて、私の不安は吹き飛び、ワクワク感でいつの間にか笑顔になっていました。

「そろそろサービス担当者会議を始めましょう」と田中さんが言いました。

今日子さんの表情はわからないけれど、「まかせときー!」といった感じで、堂々と私の横にやってきました。

つづく…

読んでくれてありがとうございます。
第2話「サービス担当者会議」是非お楽しみください!

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