今日子さんVS今どきの孫息子

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第1話から読みたい方は、こちら(今日子さんシリーズ目次)へどうぞ!
愛車の自動運転車椅子に乗って、近所の無人回転寿司「ハマー」に到着すると、息子家族が手を振って迎えてくれました。

息子の由樹、嫁の真奈さん、孫の遊心です。
「母さん、すぐに来られなくてごめん。大丈夫か?」と由樹が心配そうな顔をしています。
「うっわぁー、ばあちゃん、すごいやつに乗ってんなー。俺にも乗らしてくんね?」と遊心は私よりも、自動運転車椅子に興味深々です。
「何言ってんのよ!遊心!お義母さん、すみません。お寿司食べたら、お家に行って、いろいろお手伝いしますね」
真奈さんはしっかり者でやさしい人です。
「家のことは大丈夫よ。今日子さんがいるからね。あっ、今日子さんは私のコンシェルジュ。帰ったら紹介するわね」
私がそう言うと、みな「???」って感じの顔をしていましたが、それよりもお腹がすいていたのでしょう。
早々に「ハマー」に入って、皆で美味しくお寿司をいただきました。
孫の遊心は高校2年生、来年、大学受験です。
目指している大学は、私の家から電車で30分のところにある難関大学です。
「合格したら、ばあちゃん家に世話になるわ」って軽い調子の遊心。
勉強しなきゃ、入れないよ…
帰り道に息子家族とそんな話をしながら、我が家に到着。
今日子さんが出迎えてくれました。
「えー、なんか思ってたのと違うわー。顔こわくね?」と遊心が今日子さんを見るなり言いました。

今日子さんは動じません。と、いうか、もともと無表情でした…
私が息子夫婦に今日子さんには大変お世話になっていることを伝えると、2人とも、「母のことをどうかよろしくお願いします」と今日子さんに深々と頭を下げて、キャラメルサンドのお土産を渡しました。
「さあ、ゆりこさん。みなさんにコーヒーをだしましょう。みなさんでキャラメルサンドをめしあがってください。4にんぶんでいいですからね」と今日子さんが言いました。
由樹が「しまった!今日子さんは食べられないんだ…」という顔をしていたので、私は内心おかしくてたまりませんでした。
真奈さんも申し訳なさげに「いえいえ、私がコーヒーを入れますよ」と言いましたが、今日子さんは「ゆりこさんにしてもらいます。これもせいかつリハビリです」とすかさず返していました。
「ねぇねぇ、今日子さん。俺が再来年、この家に住んだら、ご飯作ってくれんの?」
「ねぇねぇ、今日子さん。ちょっとそこのリモコン取ってくれる?」
「ねぇねぇ、今日子さん。背中かゆー、ちょっとだけ掻いてくんね?」
遊心はあの手この手で今日子さんを試しています。
でも、今日子さんに勝てるはずがありません。
「わたしはゆりこさんのコンシェルジュ。あなたのことはできません」一言でノックアウトです。
そのうちに遊心は「俺のこの服、似合ってると思う?」「部活引退したら、勉強に専念できるかな~」なんて、人生相談かよって思うようなことも聞いていましたが、「あなたのデータはインプットしていません。わかりません」とあっさりと今日子さんに返されていました。
我ながら、チャレンジャーな孫だな…と思っていると、「母さん、これからのことを相談しよう」と由樹が言い、私と息子夫婦は別室に移動しました。
「同居しないか?」と息子夫婦から提案されました。「遊心がこっちの大学に入学しても、あいつがこの家で1人暮らしすればいい。母さんは、もういい歳だし、僕たちと一緒に暮らす方が安心だろ」
由樹の気持ちは嬉しかったのですが、私ははっきりと断りました。
なぜなら今日子さんがいる限り、大丈夫だと思ったからです。

今日子さんと二人っきりになった遊心は、そろそろあきらめモードに入っていました。
遊心なりに、今日子さんと仲良くなりたかったのでしょう。
すると今日子さんが遊心に「あなたにひとつだけ、おねがいがあります。だいがくせいになって、このいえにすむのなら、ばんごはんをゆりこさんにつくらせてください。そして、『おいしい』とゆりこさんにいってあげてください」と言いました。
「今日子さん、すっげぇ、ばあちゃんのこと考えてくれてるんだな。ありがと。俺、子供の頃、ばあちゃん家に行くのが楽しみでさ。大好きなんだ。俺、めっちゃおいしそうに食べて、ばあちゃんに『おいしい』って言うよ!」
「わたしにはできないことですから…」
遊心には、なんとなく今日子さんが悲しそうな顔をしているように見えました。
「ロボットと人間の約束な!はい、指切り!」遊心は笑顔で言いました。
「あなたのことはできません」と言いながら…

今日子さんは、あくまでも今日子さんです。
私と息子夫婦がリビングに戻ると、なんだか今日子さんと遊心が仲良くなっているように見えました。
「ねぇねぇ、みんなで写真とろうぜ!今日子さんもほらっ」と遊心が言いましたが、「わたしはしゃしんにははいれません。そういうきそくです」と今日子さんに断られてしまいました。
「俺は今日子さんのお願いきいてあげるのにな…」と遊心がブツブツ言っていると、「ぐうぜんはいってしまうぶんには、しかたないですが…」と珍しく今日子さんが妥協したのです。
こんな今日子さんは初めてでした。
私たちがいない間にこの2人、いや、1人とロボットの間には友情?が芽生えたのでしょうか…
今日子さんが映っている写真は、後にも先にも、これだけです。

つづく…

読んでくれてうれしいです。
第6話は、ケアマネの田中さんがAIアバターになるお話です。
お楽しみに!

今日子さんシリーズ、全エピソードをまとめています。