【現役のケアマネジャーが実践している】特養にスムーズに入所するための方策!

  • 特養は何年も待たないと入れないの?
  • 特養でないと施設費用が払えない
  • できるだけ早く特養に入るにはどうすればいいの?

現場のケアマネジャーとして、多くのご家族からこのような相談を受けます。

特別養護老人ホーム(以下、特養)は、介護度が高く在宅生活が難しくなった高齢者にとって、安心して長く暮らせる場所のひとつです。

比較的費用が安いことから人気が高く、入所待ちが多いため、すぐに入れるとは限りません。

筆者は従来型特養(多床室)に2年間、ユニット型特養(個室)に2年間の勤務経験があり、現在は居宅介護支援事業所のケアマネジャーとして、ご利用者の特養の申請をサポートしています。

この記事では、私が実践している、特養にスムーズに入所するための具体的な方策をご紹介します。

  • 入りやすい特養の情報収集
  • 【複数・新設・家族宅から近く】の特養に申し込む
  • 特養申込書の特記事項に「必要性+α」を記載する
  • 待機期間に併設のデイサービスやショートステイを利用する

特養ってどんな施設?とわからない方は、こちらの記事を読んでみてくださいね。

目次

特養申込から入所に至るまでの流れ

まずは、申込から入所に至るまでの流れを理解しておきましょう。

一般的な流れについて、ステップごとに解説します。

STEP
入所申込書の提出

入所したい施設を決定し、入所申込書、その他必要な書類(自治体や施設ごとに指定されている)を提出します。

担当のケアマネジャー、もしくはご家族が必要な書類を揃え、施設に提出することが多いです。

STEP
優先度の判定・入所待機者の登録

申込した施設では、緊急度や必要性を評価し、結果に応じて入所待機順を決定します。

評価方法は、施設により異なります。

(例)

  • A・B・Cの三段階評価(Aが一番優先度が高い)
  • 点数評価(100点が一番優先度が高い)
STEP
入所候補への連絡

待機期間を経て入所優先度の高い方より、順に施設から担当のケアマネジャー、もしくはご家族に連絡が入ります。

この段階では、まだ入所が決定したわけではありません。

STEP
施設との面談

ご本人・ご家族に対し、施設の職員(生活相談員や看護師など)が面談を行います。

通常、ご本人宅で行いますが、入院中や他の施設にいる場合は、そこへ施設の職員が訪問することもあるでしょう。

この面談で、ご本人の現在の心身の状態、生活状況、医療的なニーズなどを最終確認します。

事前に、健康診断書や診療情報提供書などの医療情報の提出を求められる場合があります。

利用者側も施設の体制や生活に関する疑問などは、施設の職員に確認しておくのがよいでしょう。

面談後、「やっぱり、この施設には入りたくない」と気持ちが変わってしまったときは、利用者側から入所を辞退することも可能です。

STEP
入所判定

施設では聞き取った情報をもとに、入所の可否を検討します。

施設の受け入れ態勢と入所者の状況が合致すると判断された場合、正式な入所が決定です。

その後、入所日の調整、持ち物の準備などを行います。

STEP
契約・入所

施設との契約書や重要事項説明書などの書類を取り交わし、入所となります。

筆者

施設との面談は、ご家族や施設の要望により、担当のケアマネジャーが同席することも多いです。

入りやすい特養の情報収集

もし、「何年も待てない」「できるだけ早く特養に入りたい」という方は、どの施設を申し込むかの段階で情報収集しておくことをお勧めします。

担当のケアマネジャーを通じて、希望する施設に聞いてみるのがよい方法です。

私の過去の経験ですが、要介護3の方の特養入所をサポートしていた際、事前の電話相談で施設側から得た情報です。

  • 「うちは、ほぼほぼ要介護4か5でないと入所は難しいから、今、要介護3なら4になってから申し込んだ方がいいですよ。待機者は500名ほど。今、申し込むと、申込書が埋もれてしまうだけですよ」
  • 「この前、要介護3の方が入所したばかり。次は要介護4か5の方が選ばれると思います」

「できるだけ早く」という希望がある方は、前もってこのような情報をケアマネジャーに入手してもらい、申し込む施設を決めるとよいでしょう。

筆者

ケアマネジャーは、地域の特養とも繋がりを持っていることが多いですよ。

もし、ご本人が要介護3だったとしても、特養に入れるケースはたくさんありますので、諦める必要はありません。

【複数・新設・家族宅から近く】の特養に申し込む

ここでは、現役のケアマネジャーである私が実践している、特養に申し込むときの方策について解説します。

複数の特養に申し込む

1か所より、複数申し込む方が入所の確率はあがります。

私の経験では、3~4か所の特養に申し込む方が多いです。

ご本人が男性の場合、従来型特養(多床室)よりは、ユニット型特養(個室)に申し込む方が入れる可能性が高くなります。

男女の平均寿命の違いなどから、古くからある従来型特養の多床室は、女性部屋の割合が多いからです。

施設費用は、従来型特養(多床室)の方が安くすみます。

「できれば従来型特養(多床室)がいいいけど、無理ならユニット型特養でもOK」と思う方は、両方に申し込むこともできます。

新設の特養は狙い目

もし、「新設の特養が建つ」という情報があれば、これは狙い目といえるでしょう。

ケアマネジャーは「特養が開設する」といった情報を得やすい立場にあります。

多くは、開設の半年前あたりから入所申込を受け付けています。

入所定員が多い施設であればあるほど、入所できる確率は高いです。

すでに特養の申込をしている方も、「新設の特養が建つ」といった情報があれば、申し込んでみるとよいでしょう。

筆者

現在はユニット型個室の普及が進んでいるため、新しく開設される特養のほとんどは、ユニット型特養になります。

家族宅から近くの特養に申し込む

例えば、ご本人がA市のB区で1人暮らし、ご家族が同じA市のC区に居住。

B区からC区まで少し距離がある場合、ご家族が居住するC区にある施設を申し込むのも有効です。

特養は原則として、「終の棲家」としての長期入所が可能な施設です。

必要な物品の差し入れや、季節に応じた衣類の入れ替えなどを施設からお願いされることもあると思います。

ご家族が施設に足を運びやすい方が、施設にとっても安心できるのです。

筆者

私の経験では、家族宅近くの特養に申し込むと、思った以上に早く入所できるケースが複数ありました。

ただし、本人宅と家族宅が都道府県を跨ぐなど、かなり遠方の場合、施設職員がご本人の面談に行くのが難しくなることも考えられます。そのような方は担当のケアマネジャーに、どちらの地域の特養に申し込むのがよいか、相談するとよいでしょう。

特養申込書の特記事項に「介護の困難さや緊急性+α」を記載する

特養の申込書は各自治体により、様式はそれぞれ異なりますが、「特記事項」という欄が設けられています。

特記事項には「優先入所を必要とする特別な理由」について、個別の事情を記載することができます。

「特養から入所に至るまでの流れ」STEP2で解説した、評価が同じ人の場合、施設側はこの特記事項を見て、面談の候補者を検討する可能性が高いです。

通常は「介護の困難さや緊急性」だけを、特記事項に記載する方がほとんどです。

私はこれまでの経験から、「介護の困難さや緊急性+施設入所することで本人・家族のQOLの向上」を特記事項に記載することを実践しています。

QOLとは、Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)の略で、「生活の質」のことを言います。身体的な健康だけではなく、精神的な幸福感、社会的な繋がり、生活の充実など、個人の幸福度や満足度を評価する概念です。

例えば、「介護の困難さや緊急性」だけの記載なら、このような感じになります。

【特記事項】例①

認知症が進み、妻が少し目を離した隙に外に出て、大声で叫びながら近所の家のドアを叩くようになった。妻はトイレに行くことすら気が気ではなく、精神的な疲弊から体調を崩している。このままでは夫婦共倒れになる可能性が高く、優先入所を必要とする。

私が実践する「介護の困難さや緊急性+施設入所することで本人・家族のQOLの向上」を意識するとこんな感じに。

QOL向上を意識すると

認知症が進み、妻の姿が見えなくなると不安になり、外に出て妻を探すようになった。大声で近所のドアを叩くので、妻はトイレにも行けず体調を崩し、夫婦共倒れになる可能性が高い。デイサービスでは、スタッフの見守りや声かけにより、比較的落ち着いて過ごしている。施設に入所し、常時の見守りや声かけがある中で過ごすことが本人の安心に繋がる。妻も体調を整え、面会を通じて本人と良好な関係を続けていくことができる。

例②は、追加した「施設入所することで本人・家族のQOLの向上」を赤字で示しています。

【特記事項】例②

夜間眠らずに探し物をずっとしている。日中は眠気が強く、食事がきちんと摂れない。自宅内は這って移動するが、トイレに間に合わず、汚れたままになっている。在宅サービスを限度額いっぱいまで利用しているが、1人暮らしを継続することが難しい。他区に住む子が1時間かけて、時々訪問しているが、就労があるため負担が大きく、優先入所を必要とする。

もともと商売を営んでいた本人は社交的で世話好き。施設に入所し、日中に多くの人と関わり、活動量を増やすことで生活リズムがつく。子の近くの施設に入所できれば、子は面会に行きやすく、安心して仕事も続けることができる。

筆者

私はこの書き方を意識するようになってから、施設から面談の声がかかることが増えました。

施設側も「施設に入ってからの見通し」が示されている方が、よりその人のことがイメージしやすく、印象に残ります。

特記事項に「施設入所することで本人・家族のQOLの向上」をプラスすることで、「ご本人やご家族のために支援したい」と施設側に思ってもらえれば、面談の声がかかる確率もあがるのではないかと思っています。

筆者

特記事項は本当に大切です。具体的に何を記載するか、担当のケアマネジャーと相談して決めるのがよいですね。

待機期間に併設のデイサービスやショートステイを利用する

申込をした施設にデイサービスやショートステイが併設されている場合は、利用してみるのもよいでしょう。

施設の雰囲気や職員の対応などがわかり、入所後の生活がイメージしやすくなります。

もし、「思っていたのと違う」…と感じるときは、他の特養を検討してみてもよいかもしれません。

施設側もご本人の状態や生活スタイルを把握しやすくなり、入所に繋がるケースは多いです。

ただし、ご本人の状態によっては、併設のデイサービスやショートステイを利用することで、かえって入所の声がかかりにくくなってしまうケースもあるので注意が必要です。
(例)ご本人が職員にセクハラ行為をする・ご本人が他利用者に暴力を振るってしまうなど

筆者

併設のデイサービスやショートステイを利用する方がよいかどうかは、事前に担当のケアマネジャーと相談するのがよいでしょう。

まとめ

特養での勤務経験を持ち、現在は居宅介護支援事業所でケアマネジャーとして特養の申請をサポートしている筆者が、特養にスムーズに入所するための具体的な方策をご紹介しました。

  • 入りやすい特養の情報収集
    • ケアマネジャーに特養の情報を入手してもらい、申し込む施設を決める
  • 【複数・新設・家族宅から近く】の特養に申し込む
    • 複数の施設に申し込む方が入所できる確率があがる
    • 新設の特養は狙い目
    • 家族宅から近くの特養に申し込むのも有効
  • 特養申込書の特記事項に「介護の困難さや緊急性+施設入所することで本人・家族のQOLの向上」を記載する
    • 「施設に入ってからの見通し」が示されている方が、施設側がイメージしやすく印象に残る
  • 特養待機期間に、併設のデイサービスやショートステイを利用する
    • 施設の雰囲気や職員の対応などがわかり、入所後の生活がイメージしやすくなる
    • 施設側もご本人の状態や生活スタイルを把握しやすくなり、入所に繋がるケースは多い
    • ご本人の状態によっては、利用しない方がよい場合も…事前に担当ケアマネに相談を!

特養の入所は、申込から実際に入るまでに時間がかかるのが現実です。

しかし、ちょっとした情報収集や申込の工夫、待機期間中の実践などから、声がかかる可能性が高まるかもしれません。

「どうしても特養でないと困る」という方は、この記事を参考に、担当のケアマネジャーと相談してみてくださいね。

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