サービス担当者会議

ケアマネジャーの田中さんが持っているタブレットを操作すると、テレビのモニターに2人の男性が映し出されました。
1人は知っています。入院中にお世話になった理学療法士の朝倉さんです。
「これでメンバーはそろいましたね。では、ゆりこさんのサービス担当者会議を始めます。まずは、自己紹介をお願いします。私はゆりこさんの担当ケアマネジャーの田中です。よろしくお願いします」
「福祉用具事業所フューチャーの山本です。ゆりこさんを福祉用具でサポートします。よろしくお願いします」
「みやこ回復期リハビリテーション病院の朝倉です。今日は在宅サービスの支援者の方にゆりこさんの引継ぎをさせていただくために参加しました。よろしくお願いします」
「デイケアみらいの井上です。ゆりこさん、初めまして。うちのデイケアは人間が4名、介護ロボット5体でやっています。ベトナムから来ているスタッフもいますが、そこらへんの日本人より優秀ですよ。送迎は無人ドローンが行います。怖かったら目をつぶっておいてくださいね。すぐに慣れますよ」
井上さんはフランクな感じの方です。
次は私の番…と少し緊張していたのですが、間を置くことなく今日子さんが喋り始めました。
「コンシェルジュのきょうこです。もくひょうはゆりこさんがじりつできることです。しょくじ、すいみん、うんどう、わたしがまいにちのせいかつをサポートします。よろしくおねがいします」
今日子さんの堂々たる自己紹介、コンシェルジュなんだぁ…とあっけにとられていたのですが、みんなは慣れているのでしょう。みな、今日子さんに軽く会釈をしています。
あっけにとられたおかげで緊張がほぐれました。
「佐伯ゆりこです。退院は嬉しいのですが、1人暮らしなので不安です。1人息子は仕事も家庭もあるので、頼りにできません。病院の相談員さんに勧められて、要介護2の認定を受けました。みなさんよろしくお願いします」
横目に見える今日子さんは、私の自己紹介が終わると無音の拍手をしているようでした。
ありきたりな自己紹介なのに、今日子さんは褒め上手なのでしょうか…
サービス担当者会議は進行していきます。
朝倉さんが私が自転車で転倒し、左大腿骨を骨折して手術を受けたこと、リハビリの経過や今の私の身体の状態を説明してくれました。
続いて、我が家の住環境を確認するために、今日子さんが家の中を歩き回ります。リビング、寝室、トイレ、浴室、ベランダ…今日子さんを通して、モニターに画像が映し出されています。朝倉さんや井上さんにも共有されています。
朝倉さんが「今の今日子さんには、玄関上がり框、ベッドの横とベランダの出入り口に手すりがあった方が良いですね。浴槽は深さがあるので、まずはデイケアで入浴する方が良いです。井上さん、デイケアで浴槽の出入りについて訓練することはできますか?」と言いました。
「もちろんです。お家で入浴できるように訓練していきましょう。左足だけでなく、全身の筋力も鍛えられるようリハビリしていきます」井上さんが答えました。
モニターに映っている井上さんの上半身は確かに筋肉質で、かなり説得力がありました。
「はい!」今日子さんが右手を上げました。
「わたしはせいかつリハビリをたんとうします。そうじ、せんたく、ちょうり、ゆりこさんができることは、わたしがみまもりながらやってもらいます!」
今日子さんは褒め上手な反面、結構厳しいのかも…でも、これから私にとって、一番頼りにできる存在は今日子さん。私は今日子さんについて行こうと決めました。
みんなに圧倒され、言われるがままの私だったのですが、一つだけ希望したのは、自動運転の車椅子。
自転車に乗れなくなったので、通院や買い物、お友達の家に行きたかったのです。
田中さんがたてた私のケアプランは以下の通りとなりました。
〇デイケア 週2回(入浴・リハビリ目的)
〇福祉用具貸与(介護ロボット【コンシェルジュ】、手すり【玄関上がり框・ベッド横・ベランダ】、自動運転車椅子、モニター操作のタブレット)
手すりと自動運転車椅子は福祉用具事業所フューチャーの山本さんがすぐに手配してくれました。
「10分もあればドローンで到着するので、到着したらセッティングしますね」
山本さんもできる男!という感じです。
「今日子さんからの情報はICTで共有します。ゆりこさん、何か心配事があれば今日子さんに話してもらえれば、私や井上さん、山本さんに自動で知らせることができるので、安心してくださいね。では、これでゆりこさんのサービス担当者会議を終わります。ありがとうございました」と、田中さんが笑顔で締めくくりました。
つづく…