空想小説【介護ロボット 今日子さん 第4話】

スパルタ デイケア

デイケアの送迎ドローンに乗って、私は「デイケアみらい」に到着しました。

緊張気味の私に「ドローン初体験、どうでした?」と、井上さんが笑顔で出迎えてくれました。
白い半袖シャツから、筋肉モリモリの上腕二頭筋が見えています。

井上さんの横には1体のロボット…うちの今日子さんより、大きくて手足が長い。

「こちらはフロア担当のミッキー。360度の視野を持っているから、何かあったら手をあげてミッキーを呼んでくださいね」井上さんが言いました。

「はーい!ゆりこさん、わたしがミッキーよ。たよりにしてね」
ミッキーはかなり明るいタイプ。コミュ力が高めのようです。
フロア全体を見渡せるように、身長180センチだとか…

ミッキーが私のテーブルにお茶を運んできてくれて、バイタル測定も瞬時にミッキーのお腹のモニターに表示されました。
「オッケー!おちゃのんだら、リハビリにレッツゴー!」ノリノリなミッキー。

井上さんに身体の使い方、歩き方、もろもろ指導を受けて、その後、マシントレーニングを行いました。
少し手を抜いていると、マシンに怒られます。
「もっとちからをいれて!ワン、ツー、ワン、ツー」恐るべき、喋るマシンたち…

デイケアみらいは、私の地域では、【身体機能・自立支援特化型のランキング1位】に輝いているデイケアです。

10年前に介護保険制度が破綻寸前となり、政府は私のような要介護認定の軽い利用者には、厳しいリハビリを課し、さっさと自立させてしまおう!という方針をとるようになりました。

軽く汗をかいた私がテーブルにもどって休憩していると、隣の席の利用者、片山さんが声をかけてくれました。
「お疲れさま。みんなどんどん卒業していってしまって、喋る人がいなかったの。ゆりこさんだっけ?来てくれて嬉しいわ」

片山さんは喋り相手に飢えていたのか、しばらくずっと喋り続けていました。
「うちの主人は車椅子でさ、介護ロボットのお世話になってたけど、早く寝ろとか言われて、うるさいって怒っちゃって…結局今は人間のお世話になってるのよ。日本人じゃなきゃ嫌とか言うしさ。お金、馬鹿にならないわよ」

お昼ごはんを食べ終わると、ベトナム人スタッフで看護師のランさんがやってきて、お風呂場に案内してくれました。

ランさんは20年前に来日して看護師になったそうです。日本語が上手です。
「あの頃はね、日本がいいって言われてたけど、今はインドが人気。よっぽど稼げるわ」だそうです。

お風呂担当のロボット2体が、もくもくと入浴のお手伝いをしています。

「ミッキーとは雰囲気が違いますよね?なんていう名前ですか?」とランさんに尋ねると
「利用者さんにアンケートとったら、裸になってる時に明るさはいらないってね。赤い方がエリー、青い方がビリーね。」と教えてくれました。

浴槽に浸かるとき、エリーが私の身体を支えてくれました。
ロボットだと恥ずかしくないし、触られてもなんとも思わない。人間よりいいかもね…なんて思いながら、気持ちよくお風呂に入ることができました。

エリーに「ありがとう」とお礼をいうと、「どういたしまして」とあっさり答えてくれました。

井上さんが「ゆりこさん、初日で疲れたでしょう。お疲れさまでした!次、ゆりこさんが来る日は僕、お休みなんですけど、リハビリのメニューはしっかり作っておきましたからね。ミッキー、よろしくね!」と言うと
「ロボットにやすみはないのにね。きゅうりょうちょうだいよ。アハハ」とミッキーが嫌味をこめて、笑っていました。

家に帰ると玄関で「おかえりなさい。よくがんばりました!」と今日子さんが出迎えてくれました。

私は「ただいまー」と今日子さんにハグをしました。
デイケアで新しいロボットに出会ったけれど、今日子さんが一番だと思ったからです。

「いのうえさんから、きょうのリハビリのほうこくをうけました。ねるまえにふくしゅうしましょう。さぁ、ゆりこさん、さっさとばんごはん、つくって。ひとりぶんでいいですからね」

今日子さん、大好きです。

つづく…